2014年4月17日木曜日

2014年4月 新学年のスタート!

今年も春がやってきました。
「ヤギのいる学校」にも、もうすぐヤギがやってきます。
ヤギ博士今井さんのところには、すでに14校の希望校が上がっているようです。
今年も新一年生が、ヤギとの生活を体験し、「いのち」について
学びを深めることと思います。
担当の先生がたの熱意には頭が下がります。

学校ヤギ飼育とアニマルセラピー 今井明夫

「ヤギの科学」
15.3 学校教育におけるヤギ飼育とアニマルセラピー(2013.3.6 3稿)
15.3.1 生活科授業におけるヤギ飼育 
 平成4年(1992)から本格的に実施された生活科は、具体的な活動や体験を重視しており、これは小学校低学年児童の発達特性に配慮して、一人一人の気付きを大切にしながら、児童にやる気と自信を持たせることを重要視している。
(1) 生活科がめざすもの
 現行の「指導要領」では生活科の教科目標は次のようになっている。ア) 具体的な活動や体験を通して、イ) 自分とのかかわりで身近な人々、社会及び自然に関心を持ち、ウ) 自分自身や自分の生活について考えさせるとともに、エ) その過程において生活上必要な習慣や技能を身に付けさせ、オ) 自立への基礎を養う、という構成である。
(2) 「生きる力」を育てる
近代化が進められてきた現代社会では、人工的、閉鎖的な生活環境に支配されているなかで、「自然の中に生きている生物」の一部である自分を認識することが少ない。上越教育大学の木村は子供の生活世界の中に「自己形成空間」を再生させることが重要であり、そのために、①多様な「経験」の回復、②心身の一元的な発達、③共同性の回復をすべきだと指摘し、「生きる手立て」を身に付けることが必要であると強調している。
(3) 生活科における家畜飼育の意義
「生命尊重の教育」として動物飼育の意味は大きく、飼育動物の分娩や子育てから「いのちのつながり」を学ぶなど理科(生物)的な側面よりもさらに深い情操教育もしくは道徳を学ぶ場が提供できる。
学校飼育動物の現状を見ると、小動物は人が一方的に管理する理科的な観察動物の側面が主体であるのに比べて、ヤギの飼育は「気付き」の頻度が高く、知的興味を誘発する。そこから調べや相談に発展し、「自発的な学びの姿勢」が生まれてくる。さらに仲間や先生、保護者と「協働」して問題を解決しようとする児童の社会性を育てることにもつながる最適な教材である。
(4) ヤギ飼育の事例にみる子供の心の発達
上越市立S小学校では通年して小学校でヤギを飼育している。春に入学した雌の子ヤギが大きくなり、10月に雄ヤギを迎えて結婚式をした。大雪の中を保護者や地域の協力を得て冬越しして翌春に子ヤギが誕生した。これは1年間ヤギの世話をしてきた児童への最大のプレゼントである。児童は作文にしたり絵にかいたり、さまざまな表現方法で自分の感動を人に伝えようとする。
K君の作文から:「ぼくとラッキーが大人になったことが3つあります。ひとつめはぼくがみんなと話して考えて行動したことです。2つめはラッキーがおなかのなかで、赤ちゃんをそだてていることです。3つめはみんなが先生にたよらずに自分たちでやれるようになったことです」(自己の成長の認識
Yさんの作文から:「今日はラッキーのいのちと血をもらいました。ラッキーの食べたものが血となって子ヤギのためのミルクになるのです。そのミルクを分けてもらってホットケーキを作りました。ラッキーのところへ行きありがとうと言ってみんなで食べました。」
生命尊重の理解
15.3.2 総合的学習における家畜飼育の意義
(1) 総合的学習の目標
平成14(2002)から本格的に導入された総合的な学習の時間の目標は、ア) 横断的・総合的な学習や探究的な学習を行うこと、イ) 自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、問題を解決する資質や能力を育成すること、ウ) 学び方やものの考え方を身に付けること、エ) 問題の解決や探究活動に主体的、創造的、協同的に取り組む態度を育てること、オ) 自己の生き方を考えることができるようになることの五つの要素で構成されている。
(2) ヤギ飼育と総合的学習の視点
低学年の生活科におけるヤギ飼育活動から発展して総合的学習では「自分たちの食と健康」、「地域の中の生き物のつながり」、「動物の再生産(繁殖)とそのいのちを食する人間」、「いのちの連鎖(大地→植物→動物→人→大地)」、「環境問題と世界の食糧」、などさまざまに総合的な学習の課題設定は可能である。しかし、「主体的な学び」にするためには、児童自ら課題を見つけるような動機づけが重要である。人間が植物を改良して「作物化」し、野生動物を「家畜化」することで定住生活へ進化したことを理解できる児童達が、現実の自分たちの食料がどの国で生産されて、どのような流通経路で食卓に並んでいるかを知ることは極めて重要な学びである。
日本の食料自給率が低いことや膨大な量の食品廃棄物の問題、そして日本が輸入している食料や飼料が経済的に貧しい発展途上国の子どもたちの栄養や健康を奪っている事実を知り、日本人の食料の60%と、家畜飼料の大部分を輸入に依存している我が国の農業のあり方はこれでよいのかと問うことも必要である。
 (3)総合的な学習の事例
①柏崎市立H小学校の5年生は総合的な学習のためのオリエンテーションとして「家畜から学ぶ世界の食料と農業と環境」の授業を行った。低学年の時にヤギ飼育を体験してきた児童達は生命の源が食べ物であり、食用作物の栽培を中学年で体験学習している。高学年になって家畜と畜産物がどのように生産されているかを知りたいということがきっかけで世界の食料事情を学ぼうということに発展していった。
②三条市立S小学校では12年生が生活科でヤギの飼育を行っているが、生徒数が少ないので、各学年が順番に昼休みに小屋掃除をしている。34年生の総合学習では作物を栽培したり、収穫したり、調理したりする中で作物の残さである豆殻やサツマイモのツルがヤギの飼料になることを学習する。56年生は総合的な学習のテーマに「つながるいのち」を選んで、ヤギの糞を利用して稲とトマトを栽培することにした。また、子ヤギを産んだ母ヤギが出してくれるミルクを搾り、どんな食べ物にできるか加工調理にも挑戦することになり、資源が循環利用されることを学んだ。
15.3.3 障害を持った児童のヤギとのふれあい授業
新潟県立T特別支援学校では重度な障害を持つ児童の心の発達を促すために「ヤギの授業」に注目し、農園をたずねてきた。
5月と6月には2頭の子ヤギが学校を訪問して、児童達とふれあいの時間を持った。はじめは近づくことができなかった児童が2回目には子ヤギのそばに寄って哺乳ビンでミルクを飲ませ、キャベツの葉を子ヤギに与えるようになった。
7月、9月は農園に遠足で来て、庭でヤギと遊びことができた。誰とも交わることのできなかった障害を持つ児童が自分からヤギを追いかけていた。
10月にはサツマイモの収穫に山の畑にやってきて、広い畑の中を走り回り、ヤギや犬と一緒にサツマイモを食べた時間は、障害を持つ児童の心にたくさんの感動を与えることができた。
  
 ヤギはクラスメイト   子ヤギ誕生       農園へ遠足

15.3.4 学校ヤギ飼育の課題と対応策
・ヤギの飼育には小屋や飼料、診療費などの経費が掛かる。
・家畜の飼育には休みがない(当番を決めて交代で世話をする)
・教師に飼育体験がない(近隣のヤギ飼育者が指導する)
・健康管理の相談(メール相談に対応し、近くの獣医師を紹介する)
・エサの確保に苦労する(それがヤギ飼育の大きな意義でもある)
・繁殖(種付け)をどうするか(秋に雄ヤギが学校を巡回する)
・卒業するヤギの引取り(ヤギネットワークで引受先を探す)

【参考資料】
今井明夫・阿見みどり(2011)ヤギのいる学校、銀の鈴社
今井明夫監修(2011)ヤギと暮らす、地球丸
木村吉彦(2004)生活科の新生を求めて、日本文教出版
文部科学省(2008)小学校学習指導要領解説:総合的な学習の時間編、

                   
  米つくり                  (毎日のエサ)
  野菜つくり                 畑の作物残さ
  ミルクの加工                給食野菜クズ
         ヤギの糞と生ごみで堆肥つくり      
         子ヤギ誕生と発育、乳搾り         



15.3.4.  ヤギのアニマルセラピーへの活用と生命教育
人類史を紐解くと、古代における動物と人間の関わりは動物の癒やし効果をもたらすアニミズムとシャーマニズム(Eliade 1964)にたどり着くことが出来る。近世では精神医療施設へ動物導入が開始され、20世紀には科学的検証に基づく医学の発展により人間と動物との関わりからもたらされる治療効果がイヌ、ウマなどで報告された。今後さらに客観的指標による効果測定が待たれるところであり、高齢者の認知症予防、障害者のリハビリテーションや生産作業活動への広がりも含め、ヤギを用いた「アニマルセラピー」は次第に社会認識が高まってくると思われる。
(1)関連する動物介在活動の分類
少し整理すると特別な治療上の目標はなく,活動はボランティアの自主性に任され、必ずしも医療従事者の参画の必要ない動物介在活動“Animal-assisted activity”、精神的,身体的な障害治療に医師、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚師など専門的な医療スタッフおよびソーシャルワーカーが治療計画および目標を立て、記録やその治療効果を評価する動物介在療法”Animal-assisted therapy”、そして飼育動物から正しい動物とのふれあい方や命の大切さを学ばせるプログラムとしての動物介在教育“Animal-assisted education”に分類できる。現在、国内で多く実施されているのは最初に挙げた動物介在活動“Animal-assisted activity”と思われる。
(2)家畜生産の現状と生命教育
一方、家畜の飼育現場では大規模化が進み、衛生管理の観点から極めて閉鎖的な環境で生産が行われている。こうした経緯で、一般市民は、本来“生きた動物”が存在する畜産を日常見る機会はなく、畜産製品を通してのみの認識となり、いわば“家畜を物として視る”傾向が強くなりがちである。日本のヤギは近年その数がめっきり減ってしまったが、乳用、肉用の家畜として、世界を見渡すと、各地域の様々な気象条件に順応する環境適応力の高さや扱いやすい大きさの体格などから、年々飼育頭数が増えつつある。耕作放棄地が増えている国内での今後の動向に注目したい。学校飼育動物で前章でも述べられているが、日頃目にする家畜がやがて人間の食糧になる“事実”をきちんと理解させておく“生命教育”として教育プログラムに是非組み込んで欲しいと願っている。
(3)動物介在活動の精神的癒し効果
ある私立の教育施設で筆者が実施した、ヤギを使った動物の癒やし効果試験を紹介する。小学生、中学生、高校生、大学生に生後4ヶ月の子ヤギに触れてもらい、触れ合い前、触れ合い中、触れ合い後の心理的指標のアンケート結果と、生理的指標の血圧値の変化を示した。心理評価ではマイナス要因の全てが下がり、ヤギと触れあうことによる効果が認められた。プラス要因 ”活気”は触れ合い前と変化がなかった。また生理評価では、女子に限って山羊触れ合い後に血圧値が下がり、その後持続した。すなわち、山羊触れ合いによるリラックス効果が認められた。

図 POMS評価点(全体平均値)       写真 癒し効果試験(安部)

【参考資料】
Eliade Întro cazarmă in Destin (Madrid). pp84-92.  1964. 
横山章光「アニマルセラピーとは何か」(NHKブックス).  1996.
安部直重 ヤギとの触れ合いが心理、生理指標に及ぼす影響. 

ヒトと動物の関係学会講演要旨. 2005.