2012年9月3日月曜日

ヤギ飼育の多様化と疾病対策 今井明夫


ヤギ飼育の多様化と疾病対策(健康管理)

今井明夫 (全国山羊ネットワーク)

ヤギ乳を生産して加工販売したり、沖縄県のようにヤギ肉を専門に肥育する畜産とし
てのヤギ飼育だけではなく、耕作放棄地や空き地の草刈りにヤギを導入する事例が増え
ている。また小学校における生活科や総合的学習においてヤギ飼育を取り入れたり、愛
玩動物的な飼育も増加している。
こうした状況において問題となるのがヤギの健康管理であり、反芻家畜としてのヤギ
を理解していないために疾病対策が十分でない事例が多々見られている。
  ヤギ飼育者からの問い合わせや、新潟県ヤギネットワークの学校ヤギ飼育指導活動を通
してヤギの健康管理の問題点について事例をあげて紹介する。
【ヤギの健康状態についての相談事例】
腰マヒ(徳島県勝浦町 庭先飼育者)
尿石症(栃木県日光市 庭先飼育者)
熱中症(新潟県上越市
有毒植物摂取(富山県魚津市 耕作放棄地等放牧)(新潟県三条市 ヤギ飼育者)
子ヤギ下痢症(新潟県南魚沼市
成ヤギ乳房炎・乳房肥大(群馬県高崎市
ヤギ関節炎・脳脊髄炎(新潟県南魚沼市 小学校)
その他の相談事例:食滞、鼓張症、便秘、皮膚炎、貧血、口蹄疫
【健康管理の相談先】
ヤギ牧場・観光牧場:指定獣医師を委嘱(ファーミーランド、あるぺん村ほか)
ヤギ飼育小学校:ヤギ指導の専門家と連携して地域の獣医師に依頼する。
個別農家・庭先飼育者:県獣医師会や家保に相談して獣医をさがす。
愛玩動物的飼育者:ペット専門動物病院から診療を拒否される例が多い。
【ヤギ飼育に関する参考書、指導書】
「めん羊・山羊技術ハンドブック」社団法人畜産技術協会
「山羊の飼養管理マニュアル」家畜改良センター茨城牧場長野支場

「ヤギ・取り入れ方と飼い方」萬田正治著 農文協
「ヤギと暮らす~田舎暮らしの相棒に~」地球丸
「山羊とめん羊を用いた除草管理のためのマニュアル」社団法人畜産技術協会
「ヤギ飼いになる」中西良孝監修 誠文堂新光社
【これからのヤギ飼育と健康管理】
・飼育前に県獣医師会や家畜保健衛生所と相談して地域の獣医さんを紹介してもらい、必
要な薬品の手配と診療について依頼しておく。
・専門機関(家畜改良センター長野支場)、関係団体(全国山羊ネットワーク、社団法人
畜産技術協会)の資料を入手して健康な飼育に努める。
・動物愛護管理法によって健康な飼育管理が義務付けられている。

ヤギの熱中症対策

今年は各地で猛暑が続き、人間も大変ですが、
ヤギの世話をする方々のご心労をお察しします。
下記、今井明夫さんが質問に回答された内容をコピーします。
ご参考まで。




子ヤギの離乳時期の体調管理はとても難しいものだと思います。
飼育農家から子ヤギを1.5~2か月で引き取って今井農園で1か月ほど
離乳馴致の期間を設けてから各地の小学校へ入学させるのですが、
今年は約20頭を育てました。
 
ヤギの反芻胃が発達して、草を順調に消化吸収できるのは3か月と
されています。子ヒツジの離乳時期は4~5か月としています。
この離乳の時期には栄養の充足と同時に反芻胃の発達に合わせた
草類の質(繊維が柔らかくて消化の良いもの)が問題になります。
母乳を飲みながら胃袋を作り3~4か月で離乳するのが理想的なのです。
 
軟便状態から下痢が始まったら早期に治療しないと反芻胃に住み付いた
消化微生物がいなくなりますから、回復するまでに時間がかかります。
小学校では症状が悪化するまで見ているために手当てが遅れること
多いのです。
 
症状ごとに治療法は違いますが、食欲があって下痢の初期状態では
コクシジュウムによる場合が多く、まず下痢止め+コクシジウム薬を2~3日
飲ませます。そして栄養補給として赤ちゃん用粉ミルクを200cc2回
与えます。これは下痢による脱水症状を起こさないように補水する意味も
兼ねています。
 
コクシジュウムは獣医さんが糞便検査で見つけてくれます。
コクシジュウムが原因でない場合にはウイルス性下痢と消化管内寄生虫
(特に捻転胃虫)が要因として考えられます。
コクシジュウム薬で下痢が止まらない場合には駆虫薬(リペルコール)を
ミルクと一緒に飲ませますが、薬量を守って1回だけとします。
それでも症状が改善しないようであれば獣医さんに抗ウイルス薬を注射して
もらいますが、今年は獣医さんに1回もかかっていません。
 
ある小学校へ入学した子ヤギの下痢が続いて脱水症状から起立不能
食欲なしの状況に至ってから連絡があり、当農園に引き取って治療と回復に
努めて1か月以上かかって学校へ帰した例があります。
ミルクと栄養剤を与え、ヨモギと桑の葉を給与しました。完全に食欲が戻って
からミルクをやめて野菜ジュースを1日1回与えました。
 
熱中症は急激に脱水症状が進み食欲もなくなります。食欲があるうちに補水と
環境改善してやることが必要です。
腹が張っているように見えるのは胃の機能が低下して消化が進まずに食滞を
起こしていることも考えられます。
その場合は第一胃機能促進剤(トルラミン)を10g×2回3日ほど飲ませます。
 
以上簡単に思いつくままを書きましたが、富山県畜産研究所にヤギのことを
よく知っている獣医さんがいると聞いていますので相談してください。
富山県畜産研究所(天野副所長、廣瀬酪農肉牛科長):076-469-5921