2014年12月1日月曜日

やっと辿り着いた全国山羊サミット

今井明夫さんより、全国山羊サミットに参加された方からの
お便りをお送りいただきましたので、ここに掲載させていただきます。

今井さんからは、

〈 ヤギでつながる人の関係がどんどん広がっていきますが、
 みなさんがそれぞれにヤギに対する思いを強く持っていて
 「つながるいのちの輪」を実感しています。 今井明夫 〉

というコメントもいただきました。本当に嬉しいです。

以下、サミット参加者さんからのお便りを掲載させていただきます。 ↓


私と山羊との出会いは10年ほど前のことである。
大好きだった仕事を家庭の事情で退職し、
転居先の自宅で悶々とした日々を過ごしていた私は、
あるとき思い立って近隣にある観光牧場に働かせてくれるよう
お願いしてみた。
しおれてしまっていた心が動物との触れ合いと、
緑の木立を抜ける清風を求めていたのだと思う。
無事雇われることになり、牧場に飼われていた様々な動物に交じって
山羊との交流が始まった。
 売店の売り子をすることになった私の前に現れたのは、
傍若無人なトカラ系の子山羊軍団であった。
所構わず跳び乗る、すました顔で糞をしながら歩いていく、
しゃがんで片付けているとお尻に頭突き、
振り返ると後足で立って待ち構えている。
お散歩タイムのたびに背中の毛を立てて跳び回る山羊たち。
山羊ってこんなに活動的なのか、アニメのイメージとは違って、
生命力あふれる山羊たちとの出会いだった。
 私の中に「山羊の情報を集めるアンテナ」が立った。
自宅にあった子供向けの図鑑を読んだが物足りない。
本屋で散々探しまわって、
農業関連の棚で『新特産シリーズ山羊』を見つけた。一気に読んだ。
難しくて理解できないところもあったが、
読後「山羊は素晴らしい生き物だ」と妙に興奮した。
売店から山羊を観察するのが楽しくなった。
私が山羊好きになったのを知って職員の方が『ヤギの友』を
貸して下さった。衝撃だった。こんな素晴らしい人達がいる。
自分も山羊と暮らしてみたいと強く思った。



諸事情から牧場の仕事はその年の冬になる頃辞めてしまったのだが、
アンテナが立っている私の日常の中には山羊の情報が
少しずつ入り込んでくるようになった。
新しい山羊本が発売されるたびワクワクしながら読んだ。
一般向けの本が増えてきていることと、
様々な目的で山羊と暮らす人が増えていることを感じ、
「私もいつかは」と、勇気をもらった。
9年の歳月を経て子育てと起業が一段落し、
昨年から山羊と暮らしている。
新米山羊飼いになって、
ついに憧れの全国山羊ネットワークに入会した。
私の夢を長年静かに支えてくれた本の著者の方々に会ってみたい。
全国山羊サミットは私にとってはやっと辿り着いた
瞼の父母が住まう場所である。
大げさかもしれないが、そのくらいの気持ちで北海道から
夜行列車を乗り継いで会場に向かった。

一人で活字を追いながら、
思いを馳せていた山羊をめぐる取り組みの数々、
それを実践している方々の講演やコメントは、声とともに、
体温や湿り気、草の香り、人と山羊の息遣いを伝えてくれる。

素晴らしい発表を楽しんだ後の移動のバスでは、
今井先生とお話しする機会があった。
揺れるバスの中、身を乗り出して山羊の病気への対応方法を
熱心に教えて下さった。
動物との関わり方は人間としての生き方に通ずる。
観察眼をもって真剣に山羊と接する今井先生は
私の反応を少しものがさずに一瞬で掌握されてしまう心地よさを感じた。


あつみ温泉の宿泊施設での交流会でも、
なぜ山羊と暮らしているのか全て説明しなくても
理解してもらえるという点で、
まるで親戚と会話しているような親しい感覚であった。
大地に根をおろして、
生命と向かい合って生活をしている人たちはなんて温かいのだろう。
帰りの夜行列車のお伴は「まきば便り」であった。
読みながらこれから広がっていく山羊との暮らしに夢が膨らんだ。

 私は今、学習塾で毎日たくさんの子供と関わっているが
私が山羊を飼っていることを知るとたいていの子供が驚く。
なかには質問をしてくる子もいるのだが、
進学校に通っている高校2年生に
「山羊の卵はどのくらいの大きさですか?」
とスマホをいじりながら何気なく聞かれて大変な危機感を覚えた。

子供が思い通りにならないと嘆く一部の親たち、
表面上のお行儀の良さを求める学校の先生たちを相手に、
子供のもつ素朴な素晴らしさとたくましさ、
ひとりひとりの頑張る力を信じてほしいと悪戦苦闘していたが、
答えの一つを見つけたような気がした。
生命とちゃんと出会っていない子供達はいつかきっと、
ひとつの生命としての子供と、ひいては人間と、向き合えない
大人になってしまうのだ。
次の目標は動物介在教育を学ぶことによって
この負の連鎖を少しでも断ち切ることだ。
地域に住んでいる大人の一人として、命の手触りを知る子供を育てる
手伝いが出来るならば、こんなに幸せなことは無いと思っている。

田島征三さんと今井明夫さんの対談 感想

上越市の方が対談にいらっしゃり、今井さんにご感想を寄せてください
ましたので、掲載させていただきます。ありがとうございました。 ↓

【田島征三さんと今井さんのトークショーを聴いて】

 1116日に十日町市の「絵本と木の実の美術館」で行われた
絵本作家の田島征三さんのトークショーを聴きに行きました。
田島さんお一人のトークショーの予定がヤギの今井さんも
いらっしゃるとのこと。
今井さんは去年息子が1年生の時に学校で飼ったヤギを
お世話してくださった方。
うれしくて思わず息子とご挨拶しました。

 トークショーは今井さんのヤギのお話から始まりました。
ヤギを飼っていたことがある田島征三さんと今井さんのお話しは
楽しくてあっと言う間でした。
でも内容は今の私たちが忘れている大切なことを教えていただくもの
でした。今井さんのお話は学校でヤギを飼うことの意味や
子供たちが初めてみんなと協力して行う活動だということから
始まりました。

そうでした。
1年生になり立ての子供たちはみんなで食べてよいものは何か、
毒のある草が何かを学び、糞を掃き、散歩をさせ、
どんなことをしたらヤギは嬉しいかなど話し合いながら日々を
過ごしていました。
そして秋のお別れのときにはみんなが頼もしく見えました。

新潟県内には何校か春に子供を出産させているとのこと。
本当は一時的に飼うのではなく、
この出産を子供たちに見てもらいたいと
今井さんはおっしゃいました。その出産を見守ることは命そのもの。
お母さんヤギが苦しみながら産み落とし、
赤ちゃんはじきに立ち上がりお乳を飲む。
言葉では表せない力がそこにはあるのだろうと感じます。
親子で来たヤギの卒業式で今井さんが子供たちに、
お母さんヤギはまた春に子供を産むこと、
子供のヤギはお父さんになれることを話してくださいましたが、
他校の出産を見守る子供たちの様子を聴きながら
息子の学校でも出産ができたらよいのにと思いました。

 そしてもう一つ。ヤギはペットではなく家畜であること。
これはヤギの卒業式の時にも話してくださいましたが、
ずっと心に残っていました。
なぜならば、私自身、子供たちがヤギを飼うことの意味を
よく分かっていなかったからだと思います。
授業の一環であり、みんなで協力して世話をすることで
子供が成長する。
それだけのまさにペット感覚だったと恥ずかしい思いです。

人間は何かの命をいただいて生きている。
だからこそ、感謝をしておいしく食べつくす。
今でもモンゴルなど遊牧民の人たちは家畜と共に生活をし、
その家畜を殺し食糧にしている様子をテレビで見たことがあります。
皮や血、骨に至るまで無駄にはしていない。
今の日本はきっとそんなシーンを目の当たりにしたら
気持ち悪いという人がほとんどでしょう。
でもスーパーで売っている牛肉、豚肉、鶏肉も同じ動物なのに
残せば平気で廃棄し、食べつくすと言うことからはほど遠い。

昔は家畜としてヤギを飼っていた家がたくさんあり
子供も世話をしていた。
その中でどんな草に毒があるなどを自然と学び
食べ物を大事にいただいていた。

今はどうか? 
今の世の中はデータが豊富にあり、大人も子供もパソコンなどを
使いこなすことができるかもしれないけれど、
本当の意味での生きる知恵は持っていない。
食べ物が命の上に成り立っていることすら忘れているのではないか
と考えました。

「絵本と木の実の美術館」では
ビオトープを来年から本格的に始動させるそうですが、
昔は生活している場所そのものがビオトープであり、
子供たちは遊びながら知恵を身につけていたのだろうと思いました。
家畜を飼うことは生活のためであったかもしれませんが、
そんな中で命をつなげていくことを自然と学んでいた…
お二人の話しを聴く中で便利な世の中の不便さや弱さを感じました。
いかに進歩をしても忘れてはいけない根っこがある。
 
来年「絵本と木の実の美術館」にヤギが来たら、
息子と一緒に通いたいと思っています。
そしてあまり力を入れず自然の中でいろいろなことを感じ
学ぶことができたらと思います。


 本当に意義のあるお話しをありがとうございました。


2014年11月27日木曜日

田島征三さんとヤギ対談

2014年11月16日

このたび、絵本作家の田島征三さんと今井明夫さんの対談が
おこなわれました。
田島征三さんは、『やぎのしずか』などの絵本を書いていらっしゃいます。
今井さんのご著書『ヤギのいる学校』(銀の鈴社)をご覧になって、
共感されたそうです。
田島さんは、対談に先立って、今井農園を訪問されました。

以下、今井さんのご報告文を紹介いたします。

「11月16日に〈絵本と木の実の美術館〉(十日町市鉢)
田島さんと対談しました。

美術館の在る鉢集落は山奥ですが、とても美しい場所です。
ドキュメンタリー映画を撮り続けている小林茂さんも参加してくれました。
4年前から取り組んでいる「風の波紋」という映画は来年3月に完成予定ですが、
そのなかにも十日町地域の山村で飼育するヤギが出てきます。
今井農園から行きました)
 廃校となる前に4人の子供たちがヤギを飼育しました。
その記憶が二十歳になった子供たちと鉢集落の人たちの中に
鮮明に残っているそうです。
来春にヤギの親子を入学させることを話したら、みなさんから大変喜ばれました。
夏には「大地の芸術祭」でにぎやかになりますが、
美術館を訪れた人を介して自然と環境と人の関わり方をどう感じてくれるか、
それにヤギがどんな役割をしてくれるのか。
楽しみにしています。
今井明夫」

〈絵本と木の実の美術館〉では、上記のようにヤギを飼う計画があるようです。
機会がありましたら、ぜひおでかけください。
〈絵本と木の実の美術館〉のホームページは、こちら

こうしたヤギを通じたご縁が、今後さらに発展することを願っています。


2014年7月1日火曜日

今井明夫さん(ヤギ先生)からのお手紙

今井明夫さん(ヤギ先生)から、ヤギのいる学校の小学生たちへのお手紙です。
がんばれ、ヤギ大好きのなかまたち!

ふそき小学校のヤギのなかまたちへ

 ヤギの入学のときにしつもんをもらっていたのに、
答えがおそくなりすみませんでした。

1.ヤギのエサについて
 やせいのヤギは草をおもに食べています。同じなかまに牛やヒツジ、
 カモシカがいます。
 学校では干し草とやさいなどをよういしてやってください。
 ヤギのたいじゅうが20kgとすると
 2kgから3kgの生の草を食べます。

2.ヤギのねるところ
  ヤギはかわいたところが好きで、はんたいにぬれたところや
  よごれたところがきらいです。
  よごれたところはそうじしてやって、できるだけ
  かわいたばしょでねることができるようにしてあげます。

3.ヤギさんはやさしくしてくれる人が大好きです。
  毛がぬけやすいので
  ときどきブラッシングしてやるとよろこびます。
  だっこもできます。

4.ヤギさんはぬれたところでねたりして、
  身体が冷えるとかぜをひいたり、
  おなかをこわしたりします。
  雨の日に、こやに入ることができないで
  ぬれたりすると同じようになります。

5.エサや飲み水が汚れていると、おなかのぐあいがわるくなり、
  げりになったり熱が出たりします。
  じぶんがヤギだったらどうしてもらいたいか、
  ヤギのきもちになっておせわをしてください。

6.ヤギさんは生まれてから8か月から10か月くらいで
  おとなになります。
  オスヤギといっしょになって、にんしんすると
  お母さんのおなかで150日間育ちます。
  あたたかい春になって、野はらの草が伸びてくるころに
  子ヤギがたんじょうするのです。

  みなさんがおせわするヤギさんのことをもっと知りたい時は、
  教室にある「ヤギのいる学校」と「ヤギと暮らす」の本を
  開いてよんでください。

  みなさんとヤギさんがいっしょに元気で大きくなってくれることを
  心からおうえんしています。

2014年5月26日月曜日

ヤギ飼育の準備

2014年5月24日
小学校でのヤギ飼育開始を前に、今井明夫さんから準備のアドバイス!
新年度も、各校で、ヤギたちが元気に安全に育ち、
子どもたちにとって学び多い一年になることを祈りつつ・・・
(以下、転送です)



おがくずや敷きわらを入手しずらい状況はわかります。
オーツヘイを少し余計に購入して、必要な時だけそれを敷きわら
として利用することでよいでしょう。
オーツヘイは「エンバク」の稈のことです。麦類の中では小麦や
大麦に比べて稈が柔らかくて繊維の消化も良いのですが、子ヤギに
は若干栄養分が不足します。
そこで消化が良くタンパク質の高いルーサンヘイ(アルファルファ)を
一緒に与えるとバランスがよくなります。
柏崎で入手が難しい場合はJA上越農協で購入できます。
どちらもビタミン類(特にβーカロテン)が不足しますからできれば給食
センターや食品スーパーから野菜くず(キャベツ、大根葉、ニンジンなど)
を入手して与えるようにしてください。
 
鉱塩(固形塩)はミネラルの補給に欠かせません。
 
学校内では有毒植物に注意してください。
スイセン、アサガオ、ジャガイモ茎葉、ツツジなどです。
 
子ヤギが異物摂取して死亡する例が多発しています。
特に紙類(キャンデイ、ガム、飾り物その他)は腸内に溜まってしまい
ますから注意してください。
 
今井明夫
今井農園/今井農業技術士事務所

悲しいお知らせ

2014年5月24日
そろそろ新学期にも慣れて・・・、という時期ですが、
今井明夫さんから、悲しいニュースが飛び込んできました。
少し前までお世話をして、子ヤギの元気な姿を見ていただけに、
子どもたちの気持ちを思うと心が痛みます。
(以下、今井さんからのメールを転送)




23日昼、笹岡小学校の子ヤギ(バニラ♀)が事故で亡くなりました。
同校では全校児童がよくヤギの世話をしてくれていました。
6月20日に母ヤギと妹のチョコ♀が卒業したためにさびしかったのでしょう。
ヤギ小屋を掃除してくれた子供たちがいなくなると子供たちに会いたくて
ジャンプして柵越えしようとしました。
ロープでつながれていたために柵を越えて首くくりの状態でした。

事故がどこでどんな状況で起きるかは予測できませんが、ロープによる
繋留は危険性があります。私の指示が足りなかったと反省しています。

妹のチョコを学校に戻す予定ですが、それに伴って各学校へ配置予定の
子ヤギが変更になります。特に繁殖に供用できる3月生まれの雌ヤギが
少ないので配置に苦労しています。

2014年4月17日木曜日

2014年4月 新学年のスタート!

今年も春がやってきました。
「ヤギのいる学校」にも、もうすぐヤギがやってきます。
ヤギ博士今井さんのところには、すでに14校の希望校が上がっているようです。
今年も新一年生が、ヤギとの生活を体験し、「いのち」について
学びを深めることと思います。
担当の先生がたの熱意には頭が下がります。

学校ヤギ飼育とアニマルセラピー 今井明夫

「ヤギの科学」
15.3 学校教育におけるヤギ飼育とアニマルセラピー(2013.3.6 3稿)
15.3.1 生活科授業におけるヤギ飼育 
 平成4年(1992)から本格的に実施された生活科は、具体的な活動や体験を重視しており、これは小学校低学年児童の発達特性に配慮して、一人一人の気付きを大切にしながら、児童にやる気と自信を持たせることを重要視している。
(1) 生活科がめざすもの
 現行の「指導要領」では生活科の教科目標は次のようになっている。ア) 具体的な活動や体験を通して、イ) 自分とのかかわりで身近な人々、社会及び自然に関心を持ち、ウ) 自分自身や自分の生活について考えさせるとともに、エ) その過程において生活上必要な習慣や技能を身に付けさせ、オ) 自立への基礎を養う、という構成である。
(2) 「生きる力」を育てる
近代化が進められてきた現代社会では、人工的、閉鎖的な生活環境に支配されているなかで、「自然の中に生きている生物」の一部である自分を認識することが少ない。上越教育大学の木村は子供の生活世界の中に「自己形成空間」を再生させることが重要であり、そのために、①多様な「経験」の回復、②心身の一元的な発達、③共同性の回復をすべきだと指摘し、「生きる手立て」を身に付けることが必要であると強調している。
(3) 生活科における家畜飼育の意義
「生命尊重の教育」として動物飼育の意味は大きく、飼育動物の分娩や子育てから「いのちのつながり」を学ぶなど理科(生物)的な側面よりもさらに深い情操教育もしくは道徳を学ぶ場が提供できる。
学校飼育動物の現状を見ると、小動物は人が一方的に管理する理科的な観察動物の側面が主体であるのに比べて、ヤギの飼育は「気付き」の頻度が高く、知的興味を誘発する。そこから調べや相談に発展し、「自発的な学びの姿勢」が生まれてくる。さらに仲間や先生、保護者と「協働」して問題を解決しようとする児童の社会性を育てることにもつながる最適な教材である。
(4) ヤギ飼育の事例にみる子供の心の発達
上越市立S小学校では通年して小学校でヤギを飼育している。春に入学した雌の子ヤギが大きくなり、10月に雄ヤギを迎えて結婚式をした。大雪の中を保護者や地域の協力を得て冬越しして翌春に子ヤギが誕生した。これは1年間ヤギの世話をしてきた児童への最大のプレゼントである。児童は作文にしたり絵にかいたり、さまざまな表現方法で自分の感動を人に伝えようとする。
K君の作文から:「ぼくとラッキーが大人になったことが3つあります。ひとつめはぼくがみんなと話して考えて行動したことです。2つめはラッキーがおなかのなかで、赤ちゃんをそだてていることです。3つめはみんなが先生にたよらずに自分たちでやれるようになったことです」(自己の成長の認識
Yさんの作文から:「今日はラッキーのいのちと血をもらいました。ラッキーの食べたものが血となって子ヤギのためのミルクになるのです。そのミルクを分けてもらってホットケーキを作りました。ラッキーのところへ行きありがとうと言ってみんなで食べました。」
生命尊重の理解
15.3.2 総合的学習における家畜飼育の意義
(1) 総合的学習の目標
平成14(2002)から本格的に導入された総合的な学習の時間の目標は、ア) 横断的・総合的な学習や探究的な学習を行うこと、イ) 自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、問題を解決する資質や能力を育成すること、ウ) 学び方やものの考え方を身に付けること、エ) 問題の解決や探究活動に主体的、創造的、協同的に取り組む態度を育てること、オ) 自己の生き方を考えることができるようになることの五つの要素で構成されている。
(2) ヤギ飼育と総合的学習の視点
低学年の生活科におけるヤギ飼育活動から発展して総合的学習では「自分たちの食と健康」、「地域の中の生き物のつながり」、「動物の再生産(繁殖)とそのいのちを食する人間」、「いのちの連鎖(大地→植物→動物→人→大地)」、「環境問題と世界の食糧」、などさまざまに総合的な学習の課題設定は可能である。しかし、「主体的な学び」にするためには、児童自ら課題を見つけるような動機づけが重要である。人間が植物を改良して「作物化」し、野生動物を「家畜化」することで定住生活へ進化したことを理解できる児童達が、現実の自分たちの食料がどの国で生産されて、どのような流通経路で食卓に並んでいるかを知ることは極めて重要な学びである。
日本の食料自給率が低いことや膨大な量の食品廃棄物の問題、そして日本が輸入している食料や飼料が経済的に貧しい発展途上国の子どもたちの栄養や健康を奪っている事実を知り、日本人の食料の60%と、家畜飼料の大部分を輸入に依存している我が国の農業のあり方はこれでよいのかと問うことも必要である。
 (3)総合的な学習の事例
①柏崎市立H小学校の5年生は総合的な学習のためのオリエンテーションとして「家畜から学ぶ世界の食料と農業と環境」の授業を行った。低学年の時にヤギ飼育を体験してきた児童達は生命の源が食べ物であり、食用作物の栽培を中学年で体験学習している。高学年になって家畜と畜産物がどのように生産されているかを知りたいということがきっかけで世界の食料事情を学ぼうということに発展していった。
②三条市立S小学校では12年生が生活科でヤギの飼育を行っているが、生徒数が少ないので、各学年が順番に昼休みに小屋掃除をしている。34年生の総合学習では作物を栽培したり、収穫したり、調理したりする中で作物の残さである豆殻やサツマイモのツルがヤギの飼料になることを学習する。56年生は総合的な学習のテーマに「つながるいのち」を選んで、ヤギの糞を利用して稲とトマトを栽培することにした。また、子ヤギを産んだ母ヤギが出してくれるミルクを搾り、どんな食べ物にできるか加工調理にも挑戦することになり、資源が循環利用されることを学んだ。
15.3.3 障害を持った児童のヤギとのふれあい授業
新潟県立T特別支援学校では重度な障害を持つ児童の心の発達を促すために「ヤギの授業」に注目し、農園をたずねてきた。
5月と6月には2頭の子ヤギが学校を訪問して、児童達とふれあいの時間を持った。はじめは近づくことができなかった児童が2回目には子ヤギのそばに寄って哺乳ビンでミルクを飲ませ、キャベツの葉を子ヤギに与えるようになった。
7月、9月は農園に遠足で来て、庭でヤギと遊びことができた。誰とも交わることのできなかった障害を持つ児童が自分からヤギを追いかけていた。
10月にはサツマイモの収穫に山の畑にやってきて、広い畑の中を走り回り、ヤギや犬と一緒にサツマイモを食べた時間は、障害を持つ児童の心にたくさんの感動を与えることができた。
  
 ヤギはクラスメイト   子ヤギ誕生       農園へ遠足

15.3.4 学校ヤギ飼育の課題と対応策
・ヤギの飼育には小屋や飼料、診療費などの経費が掛かる。
・家畜の飼育には休みがない(当番を決めて交代で世話をする)
・教師に飼育体験がない(近隣のヤギ飼育者が指導する)
・健康管理の相談(メール相談に対応し、近くの獣医師を紹介する)
・エサの確保に苦労する(それがヤギ飼育の大きな意義でもある)
・繁殖(種付け)をどうするか(秋に雄ヤギが学校を巡回する)
・卒業するヤギの引取り(ヤギネットワークで引受先を探す)

【参考資料】
今井明夫・阿見みどり(2011)ヤギのいる学校、銀の鈴社
今井明夫監修(2011)ヤギと暮らす、地球丸
木村吉彦(2004)生活科の新生を求めて、日本文教出版
文部科学省(2008)小学校学習指導要領解説:総合的な学習の時間編、

                   
  米つくり                  (毎日のエサ)
  野菜つくり                 畑の作物残さ
  ミルクの加工                給食野菜クズ
         ヤギの糞と生ごみで堆肥つくり      
         子ヤギ誕生と発育、乳搾り         



15.3.4.  ヤギのアニマルセラピーへの活用と生命教育
人類史を紐解くと、古代における動物と人間の関わりは動物の癒やし効果をもたらすアニミズムとシャーマニズム(Eliade 1964)にたどり着くことが出来る。近世では精神医療施設へ動物導入が開始され、20世紀には科学的検証に基づく医学の発展により人間と動物との関わりからもたらされる治療効果がイヌ、ウマなどで報告された。今後さらに客観的指標による効果測定が待たれるところであり、高齢者の認知症予防、障害者のリハビリテーションや生産作業活動への広がりも含め、ヤギを用いた「アニマルセラピー」は次第に社会認識が高まってくると思われる。
(1)関連する動物介在活動の分類
少し整理すると特別な治療上の目標はなく,活動はボランティアの自主性に任され、必ずしも医療従事者の参画の必要ない動物介在活動“Animal-assisted activity”、精神的,身体的な障害治療に医師、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚師など専門的な医療スタッフおよびソーシャルワーカーが治療計画および目標を立て、記録やその治療効果を評価する動物介在療法”Animal-assisted therapy”、そして飼育動物から正しい動物とのふれあい方や命の大切さを学ばせるプログラムとしての動物介在教育“Animal-assisted education”に分類できる。現在、国内で多く実施されているのは最初に挙げた動物介在活動“Animal-assisted activity”と思われる。
(2)家畜生産の現状と生命教育
一方、家畜の飼育現場では大規模化が進み、衛生管理の観点から極めて閉鎖的な環境で生産が行われている。こうした経緯で、一般市民は、本来“生きた動物”が存在する畜産を日常見る機会はなく、畜産製品を通してのみの認識となり、いわば“家畜を物として視る”傾向が強くなりがちである。日本のヤギは近年その数がめっきり減ってしまったが、乳用、肉用の家畜として、世界を見渡すと、各地域の様々な気象条件に順応する環境適応力の高さや扱いやすい大きさの体格などから、年々飼育頭数が増えつつある。耕作放棄地が増えている国内での今後の動向に注目したい。学校飼育動物で前章でも述べられているが、日頃目にする家畜がやがて人間の食糧になる“事実”をきちんと理解させておく“生命教育”として教育プログラムに是非組み込んで欲しいと願っている。
(3)動物介在活動の精神的癒し効果
ある私立の教育施設で筆者が実施した、ヤギを使った動物の癒やし効果試験を紹介する。小学生、中学生、高校生、大学生に生後4ヶ月の子ヤギに触れてもらい、触れ合い前、触れ合い中、触れ合い後の心理的指標のアンケート結果と、生理的指標の血圧値の変化を示した。心理評価ではマイナス要因の全てが下がり、ヤギと触れあうことによる効果が認められた。プラス要因 ”活気”は触れ合い前と変化がなかった。また生理評価では、女子に限って山羊触れ合い後に血圧値が下がり、その後持続した。すなわち、山羊触れ合いによるリラックス効果が認められた。

図 POMS評価点(全体平均値)       写真 癒し効果試験(安部)

【参考資料】
Eliade Întro cazarmă in Destin (Madrid). pp84-92.  1964. 
横山章光「アニマルセラピーとは何か」(NHKブックス).  1996.
安部直重 ヤギとの触れ合いが心理、生理指標に及ぼす影響. 

ヒトと動物の関係学会講演要旨. 2005.