2015年6月2日火曜日

「小学校における動物介在教育とヤギ飼育」その1 今井明夫

2015年5月

今井明夫さんの「畜産技術士センター」掲載用原稿の一部を
紹介します。
生活科授業におけるヤギ飼育 についてです。
「ヤギのいる学校」について、個々の事例報告に加え、
生活科と総合学習においての意義について説明されています。



生活科授業におけるヤギ飼育


平成4年(1992)から本格的に実施された生活科授業は、
低学年児童が、より主体的に取り組める学習活動の場を
保証するために設置された総合的に学習する教科である。
生活科は、具体的な活動や体験を重視しており、
これは低学年児童の発達特性に配慮して、
一人一人の気付きを大切にしながら、
児童にやる気と自信を持たせることを重要視している。

(1)生活科がめざすもの
 現行の「学習指導要領」において、
生活科の教科目標は次のようになっている。
) 具体的な活動や体験を通して、
) 自分とのかかわりで身近な人々、社会及び自然に関心を持って、
) 自分自身や自分の生活について考えさせるとともに、
) その過程において生活上必要な習慣や技能を身に付けさせ、
) 自立への基礎を養う、
という構成である。
 これに加えて上越教育大学の木村吉彦は、
「知的な気付きを大切にする」、
「多様な人々とのかかわりを重視する」をあげ、
生物や人(他者)とかかわる体験が、
低学年児童の人間形成に必要であるとしている。

(2)「生きる力」を育てる
産業と経済の近代化が進められてきた結果として出現した
高度産業社会は、現代の子供の遊びに「他者」の不在、
「なまの事物とのかかわり」の喪失が顕在化した。
すべてを管理された子供の日常生活や、
人工的、閉鎖的な生活環境に支配されているなかで、
「自然の中に生きている生物」の一部である自分を認識する
ことさえできない人間に作られていくのである。
前述の木村は、子供の生活世界の中に
「自己形成空間」を再生させることが重要であり、そのために、
①多様な「経験」の回復、
②心身の一元的な発達、
③協同性の回復をすべきだと指摘し、
「生きる手立て」を身に付けることが必要であると強調する。
(生活科の新生を求めて)

(3)生活科における家畜飼育の意義
小学校における継続的な動物飼育の意義としては、
) 親しみの気持ちが生れる、
) 責任感が育つ、
) 生命の尊さを体感する、
) 他者の立場に立った見方や考え方ができる、
) 気付きの機会が多く質が高まる、などがあげられる。

「生命尊重の教育」として動物飼育の意味は大きく、
) 動物のいのちを預かっていることの認識、
) 食べることと排泄することに休みがない。
) いのちの誕生と時には死に遭遇することもある、
) 飼育動物の分娩や子育てから「いのちのつながり」を学ぶ、
など、理科(生物)的な側面よりもさらに深い情操教育
もしくは道徳を学ぶ場が提供できる。
飼育する動物がペットのような小動物ではなく、
中型家畜であるヤギを飼育する場合は、
もっと幅広い教育的な意義がある。
児童とほぼ同じ大きさの子ヤギは、
子どもたちにとって仲間という存在であり、
毎日のエサやりや小屋掃除は大仕事で一人ではできないから
友達と一緒になって協働することが必要である。
世話をする時間はヤギとのふれあいが濃密になり、
さまざまな発見があり、
ヤギの健康状態などで疑問を見つけるとそれを調べたり、
相談したりして解決したいという気持ちが
自発的な学習につながっていく。
学校飼育動物の現状を見ると、
小動物は人が一方的に管理する理科的な観察動物
の側面が主体であるのに比べて、
ヤギの飼育は「気付き」の頻度が高く、知的興味を誘発する。
そこから調べや相談に発展し、自発的な学びの姿勢が生まれてくる。
さらに仲間や先生、保護者と「協働」して問題を解決しようとする
ことで児童の社会性を育てることにもつながる最適な教材である。
ヤギが草類を主食とする反芻家畜であって、
そのエサを探すことは健康維持に欠かせない。
市販の人工的な固形飼料で間に合わせるペットと大きな違いがある
とともに、自分たち人間の食料がどこでどのような過程を経て
生産・加工・調理されて食卓に上がるのか
にも関心を向けることができる。

 

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